2013年御翼10月号その4

「双方が勝つ喧嘩」―唄野 隆『夫婦の成熟を求めて』(いのちのことば社)

 クリスチャンの唄(ばい)野(の)夫妻が四十代の頃、ある夫婦のためのセミナーに参加したとき、夫婦喧嘩のルールを教わった。それは、夫婦の話し合いにとどまらず、コミュニケーション一般に当てはまるルールだったという(以下はそのうちの三つである)。

夫婦喧嘩のルールの第一則は、双方が勝つ話し合いをすることである。片方が相手を言い負かしたと思う話し合いは、実は、両方とも負けているのだ。両者が満足し、感謝し合える話し合いを求めることが大切なのだ。
そのために、第二のルールとして、一方が話し、聞いたほうは相手の言ったことをリピートする。相手の言ったことを自分のことばで言い換えて、「こういうことを言ったのだね」と確認するのだ。それに対する自分の反論や質問はしない。ただ、リピートするだけで、相手の言ったことを正確に理解し確認するためである。
 第三は、話し合っている間に、どんな小さなことでも、何か新しい発見があったり、思いがけない喜びや感謝に気づいたときは、黙っていないで、すぐそれを相手に伝える。お互いがそういう気づきを高く評価し合うことで、二人の会話がスムーズになる。

このルールに従って、ある夫婦が主人の休みの目のことで話し合った。妻は言った。「せっかくの休みだから、家族いっしょに休暇を過ごしたいと思っているのに、あなたはひとりでゴルフに行ってしまうわね。」夫は答える。「普段から家族サービスには心がけ努力しているから、たまの休みぐらいひとりになりたい。」と自分の思いを告げた。会話が進んでいるうちに、妻が言った。「あなたがひとりで出かけてしまった後に残された家族は、みんな取り残されたような寂しさを覚えるのよ。」この妻の思いが夫に伝わったとき、夫は、「自分が出た後の家族の気持ちには気がつかなかった。それなら、自分も考え直さないといけないな。」と言った。

そのとき、妻は、「話し合っているうちに、問題はゴルフのことではなくて、話を最後までよく聞いてくれないという欲求不満があったことに気がついた。今、最後まで聞いてくれて、私の気持ちをわかってくれたから、もうゴルフに行ってもよい、と思うようになった。行ってもよいよ。」と言った。夫は、「そうか。ゴルフの問題じゃなくて、女の人は話を最後まできちんと聞いてはしかったんだ。」と、大きな発見をした満足感をもらした。こうして二人は共に満足した。周囲の人々は、「えーっ。」と驚いた。お互いの間の気づきを大切にすることの意味もよくわかるようになった。

バックナンバーはこちら HOME